絵本を楽しもう! vol.13
「ぞうさん」
まど・みちお詩 にしまきかやこ絵 こぐま社
2016年の発行ですから、比較的新しい絵本です。しかし「ぞうさん」の歌を知らない人はいないでしょう。おそらく一番よく歌われている童謡ではないでしょうか。まどさんが「ぞうさん」の詩を書いたのが1951年ですから、もうすぐ70年が経とうとしています。
「ことばと絵がうまくかけ合っていて、ページをめくる時間までも含めて、全体が詩のような絵本を描きたい」とずっと思っていた西巻さんが、たどり着いたのが「ぞうさん」でした。西巻さんは、この絵本を描くために、千葉の「市原ぞうの国」で一日中ぞうをスケッチしたそうです。最後のページの線画で描かれているぞうの寝姿や、裏表紙の親子のぞうの後ろ姿は、スケッチの賜物だと思われます。
この詩についてまどさんが語っています。「ぞうの子は、鼻がながいねと悪口を言われた時に、しょげたり腹を立てたりする代わりに、一番好きなかあさんも長いのよと、誇りを持って答えた。それは、ぞうがぞうとして生かされていることが、すばらしいと思っているからです」「目の色が違うから、肌の色が違うから、すばらしい。違うから、仲良くしようというんです」(阪田寛夫著「まどさんのうた」童話屋刊)戦後間もない日本で、自分が自分であること(アイデンティティ)を高らかに主張した人がどれだけいたでしょうか。
欧米の絵本には100年以上前からアイデンティティをテーマにしていたものが多く、戦後日本で紹介された時には、日本でも多くの子どもたちに受け入れられました。子どもにとっては自分が認められること、受け入れられることが大事なことなのです。2014年に104歳で亡くなったまどさんの「ぞうさん」は、これからも長く愛され続けられるでしょう。そしてこの絵本も、幼い子どもたちに読み継がれていくことを願っています。
(文・吉井康文/こぐま社前社長)