おとなも絵本を楽しもう! vol.5



アイデンティティを貫くレオ・レオニ

 1959年、レオ・レオニが49歳の時に偶然の出来事から、孫たちと制作した『あおくんときいろちゃん』で絵本作家としてデビューしました。この絵本は衝撃をもたらせました。抽象的な色が主人公だったからです。しかし子どもたちはこの絵本を喜んで受け入れました。親に自己否定された二人は、その後で自分が自分であることを再確認し、親に認められ、そのことを周りに伝えます。そこに子どもたちは喜びと安心を見出したのでしょう。

 レオニは元々グラフィックデザイナーとして、様々な分野で活躍していましたが、絵本作家デビューしてからは、30作以上の絵本を発表します。そしてそれらは『あおくんときいろちゃん』と同様、『スイミー』『フレデリック』『じぶんだけのいろ』など、いずれも自分が自分であること、アイデンティティがテーマになっています。



 『ペツェッティーノ』は13作目の1975年の作品です。デビュー作以外の殆どの作品は谷川俊太郎さんが訳していて、その多くはサブタイトルが付けられています。『ペツェッティーノ』のサブタイトルは「じぶんを みつけた ぶぶんひんの はなし」です。レオニの絵本の主人公は、虫や魚や小動物が多いのですが、『あおくんときいろちゃん』と『ペツェッティーノ』だけは違います。あおときいろという色と四角いかけらが主人公なのです。ペツェッティーノは自分が誰かの部分品ではないかと、確認する旅に出かけます。みんなに否定され、かしこいやつにこなごなじまに行くことを勧められます。そこで自分がこなごなになって、自分も部分品からできていることに気付くのです。その喜びを伝えたくて戻ってみると、友だちたちが待っていて、「ぼくは ぼくなんだ」と叫ぶペツェッティーノを手放しで受け入れてくれるのです。

 かけがえのない自分の再発見は、自信を無くしている人、生きることに悩みを抱えている人たちに、力強いメッセージとして届けられるのではないでしょうか。今から30年以上前の話ですが、この絵本と出会って人生が変わったという女性が2人いました。一人は牧師となり、もう一人は絵本の専門店を開きました。それぞれの地で今も活躍しています。





 翌年の1976年にシェル・シルヴァスタインが『ぼくを探しに』を発表します。この話は主人公が自分には足りないかけらが存在するのではないかと、かけらを探す旅に出るという、『ペツェッティーノ』の逆を行くストーリーになっています。やっと見つけたかけらを当てはめてみて、完全な円になってみると、それはそれでいろいろと不具合が出てきて、ぼくは気付きます。足りないものがあっても自分らしくあることに喜びがあると。恐らくシルヴァスタインは『ペツェッティーノ』に刺激を受けたのでないかと思われます。二つの作品は呼応しているかのようです。ぜひ読み比べてみてください。新たな発見があるかもしれません。

(吉井康文)



『あおくんときいろちゃん』(レオ・レオーニ作 藤田圭雄訳 至光社)
『ペツェッティーノ』(レオ・レオニ作 谷川俊太郎訳 好学社)
『ぼくを探しに』(シェル・シルヴァスタイン作 倉橋由美子訳 講談社)

   
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