おとなも絵本を楽しもう! vol.2
「安野光雅の世界」
今年の初め、昨年2020年12月24日に、安野光雅が94歳の生涯を閉じたという訃報が届きました。安野光雅と言えば、絵本作家として著名ですが、画家、装幀家、文筆家としても活躍し、著作は200作品を優に超えています。海外での評価も高く、絵本は世界各国で翻訳されました。国際アンデルセン賞を始め、ケイト・グリナウェイ賞や絵本にっぽん賞など、内外で多くの賞を受賞し、文化功労者にも選ばれています、巨星堕つの感です。
安野光雅の絵本と初めて出会ったのは、「旅の絵本」からで、社会人になって間もない頃でした。「旅の絵本Ⅳ」(アメリカ編 1983年)が出版される前の話です。最初の「旅の絵本」(中部ヨーロッパ編 1977年)の発行から5年くらい経っていましたが、それは斬新で「こんなおもしろい絵本があるのか」と夢中になり、「この絵本を子どもだけに楽しませるなんてもったいない」と思ったものでした。
「旅の絵本」には文字は一つもありません。一人の旅人が、馬に乗って、町から町へと旅をする姿を、繊細なタッチで、細部に至るまで精緻な描写で綴られています。まるで一幅の絵巻物を見ているようです。絵を追って見ているだけでも、そこにいくつもの物語が読み取れますが、それだけではなく、隠し絵・だまし絵・名画・昔話などが織り込まれ、パラパラ漫画の技法まで駆使されています。仕掛けられたトラップを発見する喜びを味わえるのです。当時、その解答は絵本にも掲載されず、公にはされていませんでした。しかし2009年版から、安野光雅自身の解説が7ページに渡って詳しく紹介されるようになりました。ただ安野光雅の遊び心は失われず、全ての種明かしを掲載しているわけではありません。読者に探す楽しみを残してくれているのです。
「旅の絵本Ⅱ」(イタリア編 1978年)では更にサービス精神に拍車がかかります。前作以上に多くの絵が織り込まれ、イエス・キリストの生涯や映画の名場面まで描かれているのです。この絵本は、2006年の新版の際、全面的に彩色し直しています。また一部分を描き直しもしていて、図書館で旧版を借りるなどして、新版と見比べてみるのも実に興味深いです。詳細な解説も加えられ、大人の絵本の楽しみ方を満喫させてくれるでしょう。初版では解説がなかったものも、今ではⅨ巻まで全てに、解説が付いています。そしてうれしいことに、亡くなって一年が経つ来年早々に、Ⅹ巻目「オランダ編」が出版されるということです。
「旅の絵本」は子どもとも楽しめますが、幼い子どもと一緒に読むなら「もりのえほん」や「あいうえおの本」がお勧めです。「もりのえほん」では大胆な隠し絵の醍醐味を味わうことができますし、「あいうえおの本」では洒落た隠し絵で、字を覚えるのではなく、ことばの美しさを感じることができるでしょう。
(吉井康文)
「旅の絵本」(安野光雅作 福音館書店)
「もりのえほん」(安野光雅作 福音館書店)
「あいうえおの本」(安野光雅作 福音館書店)