星山こどもVILLAGE

『星山こどもVillage』対談プロジェクト Vol.03 江守敦史

インタビュープロジェクト

『星山こどもVillage』対談プロジェクト Vol.03

江守敦史

2023.09.20

 紫波町立星山小学校跡地に建設される『星山こどもVillage』では、こどもたちが「なりたい」「やりたい」と思うことをリアルに体験することができ、グローバルな思考力を持って、ローカルから発信できる場を目指していこうと考えています。その為、保育事業だけでなく他分野にまたがるさまざまな業種の方々と有機的に繋がり、意見交換する中で知見を得たり、学びを共有させてもらえればと思い、対談プロジェクトを始めました。  今回は、農家や漁師の経営改善やブランディングおよび商品開発、販路開拓などのコンサルティングを手掛ける『いまここランド』の江守敦史さんをお迎えしました。本対談では江守さんと共に、『星山こどもVillage』で展開される畑、「農福連携」をインスピレーションとした「農保連携」の在り方、地域の繋がりなど、今後の可能性を探究しました。

江守 敦史 いまここランド 代表

出版社で約20年編集者として勤務したのち、花巻を拠点とする、食べもの付き情報誌「食べる通信」を各地に広めるべく日本全国、世界を飛び回る。2020年3月に農家漁師を応援するいまここランド合同会社を設立。プランナーとして、自身も農家として、つくる人と食べる人が共に生きる世界が続くように活動中! www.imakokoland.com

濱田 和人 みんなのみらい計画 代表取締役

出版社や学校法人などの勤務を経て、2016年こどもたちのみらいが前向きで、明るく、楽しくなるような保育園をつくろうと株式会社みんなのみらい計画設立。保育の現場から多様性あふれるこどもたちの成長と子育てを楽しめる社会を目指して奮闘中!

畑を通じていのちのつながりを学ぶ
農業と保育をつなげる「農保連携」

江守敦史 いまここランド 代表

濱田:
江守さんに初めてお会いしたのは、NPO法人『みのり』の栗田誠さんのご案内で、埼玉県上尾にて『みのり』が行っている、視覚障害者の福祉作業所を見学した時でした。訪問の際、その奥で展開されている、農福連携を掲げた畑『いまここファーム』に興味を抱き、栗田さんからご紹介いただきました。最初はあの場所になぜ畑が必要なのか理解できなかったのですが、お話を伺う中で全容が見えてきました。畑の作業は障害や年齢、スキルが異なっていても、さまざまな作業があり、すべての人が関わることが可能なので、家にこもりがちな視覚障害者の方でも参加しやすいというようなお話をされていたと思います。

江守:
濵田さんに初めてお会いした時に、「農業を分解する」という言葉でお伝えしたと思います。「農業」という言葉を聴くと難しそうだったり、大変そうだったり、なかなか手を出しにくいと思われる方も多いと思いますが、「百姓」には言葉通り100の仕事という意味があります。農業は種まきをして収穫というイメージを持つ方も多いかと思うのですが、実は草取り、土づくり、収穫した野菜を袋に入れて売りに行くなど、沢山の工程があります。それらの作業を分解して切り分ければ、障がい者やご老人、こどもなどの多くの人が関われると思い、「農業を分解する」という言葉を使っています。
また、背景として農業に従事する人口が減少していることもあります。私は1972年生まれですが、その当時は約1000万人が農業に従事していました。つまり日本国民の約10人に1人くらいは農家だったんですね。しかし、現在の基幹的農業従事者数は116万⼈まで減っています。それに対して、さまざまなことが障害として認められるようになったこともありますが、障がい者の数は増加しているのが現状です。食料自給率が低くなっていく中で、より多くの方が農業に関われるようになればという想いがあります。

濱田:
『星山こどもVillage』で展開しようと考えている畑はさまざまな世代とつながったり、地域とつながるイメージを思い描いていますが、このアイデアが湧いてきたのは『いまここファーム』で得たインスピレーションからです。これまでも保育園の中で畑を持つことは一般的でしたが、あくまで園内に留まるもので、外につなげていくという発想は持っていませんでした。廃校となった星山小学校の活用として紫波町から公募があった時、校庭を畑にすることで、過疎化する地域の中で多くの方がつながる場所として展開できるのではないかと直感的に感じました。
江守さんは埼玉が本拠地で、岩手県紫波町の畑を常に見ていただくには距離があり難しいと思いましたが、前職で『東北食べる通信』をやられていたということもあり、もしかしたら岩手でも、他のつながりがあるかもしれないと考えて、「どなたか適任の方をご存知ないですか」とご相談をしました。その結果、ファームプラスの平賀恒樹さんと平賀悦子さんをご紹介いただくことになるのですが、お二人を推薦されたのはどのような理由からだったのでしょうか?

濱田 和人 みんなのみらい計画 代表取締役

江守 :
『東北食べる通信』は、生産者を取材した雑誌に食べ物の付録がついたサブスクリプションで本拠地が花巻にあります。ガッツさんこと平賀恒樹さんに出会ったのは、まさに『東北食べる通信』を通じてでした。ちょうどその頃、ガッツさんはカフェを始めるタイミングで、私も『東北食べる通信」として生産者と消費者の距離を縮めたいという想いを抱いて奮闘していた時期でした。
まず濱田さんから星山小学校の校庭を畑にして生きることに必要な物を作る、というお話をお聞きして、アメリカの思想家であるアリスウォーターが提唱した「エディブル・スクールヤード」というアイデアが浮かびました。食物をともに育て、ともに調理し、ともに食べるという体験を通して、いのちのつながりを学び、人としての成長を促す教育です。しかし、埼玉を拠点に全国を飛び回っている身として常時、『星山こどもVillage』の畑に携わるのは難しいと判断し、私と同じような気持ちで関わってくれる方としてガッツさんのことを思い出しました。ガッツさんが一度上京した後、農業がやりたくて岩手に戻っていることや、悦子さんが保育士であること、お二人のお子さんが「お父さん」「お母さん」ではなく、対等な立場として愛称で呼ぶような関係性を築いていることから、『星山こどもVillage』プロジェクトに適任だろうと考えたのです。さすがにその時、お二人が農業と保育の連携をやりたい、と考えているということまでは知らなかったのですが、農家と保育士という組み合わせの夫婦ですからこの二人しかいないと思ったのです。

濱田:
その後、星山小学校に江守さんと平賀夫妻をご案内した時、校庭に立ちながら私たちが同じ未来のイメージを共有してつながっている感覚を受けました。まだお互いがどのような人間かわからない状態ではありましたが、「一緒にやりましょう」という意識が重なったことを覚えています。

江守 :
星山小学校には圧倒的な場の力があり、それぞれのバックグラウンドが重なり、同じような景色が見えたような感覚がありました。校庭が畑になり、その周りを子どもたちが元気に走り回っているようなイメージです。その場ではあまり具体的な話は出ませんでしたが、確かにつながった感覚がありましたね。

濱田:
それからしばらく江守さんに間に入っていただいて、平賀夫妻とお話しをさせていただき、少しずつピースが埋まっていきました。平賀悦子さんは『星山えほんの森保育園』園長に、平賀恒樹さんは『星山こどもビレッジ』菜園担当に、江守さんには農業と保育をつなげる「農保連携」プロデューサーとして関わっていただくことになりました。不思議なご縁に感謝しています。

江守 :
私は農業と福祉の連携で、障がい者の方と、福祉作業所での農業指導と私の畑での施設外作業いう、2つのパタ ーンで「農福連携」を実践していますが、濵田さんがおっしゃった「農保連携」という言葉は初めて聞きました。試しにネットで「農保連携」と検索してみたらまだ言葉自体もないようですが、新しい取り組みとして可能性を感じています。
「農保連携」の肝としては、こどもたちが畑を通じて、私たち自身を含めて全てが命の循環の中にいる、ということを幼い時から体験を通して学べるということだと思います。種があって作物が育って、それを食べているから私たちは生きている。そして、やがて人間も死んで土に還る。『東北食べる通信』で働いていた時から、どのようにしたら小さなこどもたちに命の循環の意味を教えられるのだろうかと模索していました。

濵田 :
自分たちが毎日食べたり触れたりするものの成り立ちを知ることで畏敬が生まれると思っています。私たちの保育園では、シュタイナー保育の考え方に即して「いのちの畏敬」「人生を自分の力で選択していくこと」という2つの柱を大切にしていますが、それらがこの「農保連携」プロジェクトを通じて学べるのではないかと期待しています。

江守 :
食べない人はいないので、誰もが自分ごとにできるテーマですよね。やはり知っている人や自分が作ったものは特別で、そのような喜びも感じて欲しいと思います。また、「食」は人と人をつなげるツールとしても良いですよね。地域に新しいものができると、周りの人は異質で怖いと感じる人も多い。それは保育園も同様で、何をしているか分からないから怖いと感じてしまう。畑には、地域の人につくり方を教えてもらったり、一緒に育てるということを通じてコミュニティが育まれていく、という可能性もあると思っています。







同じ現象でも視点が変われば新たな可能性が見える

濵田 :
江守さんは決して他者を否定することはしない人ですよね。私の提案に「やりましょう」「ワクワクします」というような言葉を返してくれるので、私自身も力を貰うことができます。そのようなポジティブな江守さんが以前、「学校に通えない時期があった」とおっしゃっていて驚きました。もし差し支えなければ詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?

江守 :
私の両親は対照的で、父は障害をもつ商売人で、母は学校の先生でした。それぞれの思想も異なり、あまり勉強が頭に入ってこなかった時期があります。そして周囲の友人ともあまり馴染むことができなくて、中学生から学校に通わなくなりました。その間、近所の山に行って釣りをしていましたが、平日だったこともあり、お巡りさんに補導されたこともあります。しかし、近所のお兄さんやプラモデル屋のおじさんが話し相手になってくれました。よくある言葉ですが、学校に行かなかった時期に「大事なことは学校の外にある」ということを経験したと思います。

濵田 :
その期間を経て、変化したこと、変わらなかったことはありますか?

江守 :
小学生の時には壁新聞をつくることが好きなこどもで頼まれてもいないのに学級新聞をつくったり、中学生の時は不登校だったのに放送部の部長で、全国放送コンクール映像部門第7位になったこともありました。後に、『リクルート』『KADOKAWA』『食べる通信』に勤務し、私のこれまでを知る人には 「江守君は変わったね」と言われたりもしますが、私自身あまり変化しているとは考えていません。もちろん、アウトプットは常に変化していますが、根本はクリエイトすること、プランニングとその実行です。

濵田 :
実は私も学校に行かなかった時期があります。特に小学生から中学生にかけて、クラス全員が仲良くしなければいけないという空気感に悩まされました。転期は高校生の頃、1ヶ月ほど米国を旅行した時です。あくまで私的な見方ではあるのですが、米国人は良くも悪くも周りをあまり気にせず、興味があるのは自己という印象を受けました。そのような同世代を見て何かが吹っ切れた。その体験を通じて人間関係の距離感を学んだのだと思います。

江守 :
日本でも自殺されてしまう方は多いですが、所属するコミュニティが少ないのだと思います。限られた小さなコミュニティで関係性が拗れると生きていけないと思ってしまう。やはりさまざまな場所に自分の居場所があることが大切ですよね。

濵田 :
同じ現象でも視点が変われば新たな可能性が見えたりするので、多くの視点を持っていた方が行き詰まりにくいと思います。農業では天候や環境に左右されるので、臨機応変に対応していくという学びもあるかもしれないと勝手に想像しています。

江守 :
コミュニティのことで言えば、さまざまな生き方をしてきた大人が身近にいることで、必ずしも偏差値が高い大学に行くことや大手企業に勤務するだけが幸せにつながる訳ではないということを理解できるのではと思います。これから人口減少が進み、生き方に悩んだり、焦ったりするこどもが多くなると思いますが、昔の地域の暮らしのような密なコミュニティがあれば、悩んだ時に誰かに聴きに行くことができます。そのような相談相手を見出す力や、サバイブしていく力を豊かなコミュニティを通じて学んで欲しいと願っています。







顔の見える給食、顔の見える食卓
地域の食を守るためのフェアトレード

濵田 :
江守さんが企画としてあたためている、畑から派生した給食プロジェクトについてもお話しいただけますか?

江守 :
『星山こどもVillage』の畑から派生して他に何か貢献できないかと考えた時に、「顔の見える給食」、あるいは「顔の見える食卓」というアイデアがまず浮かびました。知っている人がつくった野菜を食べると特別に美味しい、と感じることを家庭でも実現できたらと。そこで、食べ物のデリバリーとしての問題で、ラストワンマイルという自宅に届くまでの距離を運ぶのに食べ物は単価が安く宅急便での配達が割に合わないというものがありますが、ここを拠点に新しいフードデリバリーができないかと考えました。実現すれば「ガッツさんのつくった野菜は美味しいね」と言いながら家庭でも食育ができるし、その周辺の農家さんの収入も安定する。そのような試みを始めていけたらと思っています。

濵田 :
保育園では給食予算がありますが、適正価格で農家さんから仕入れることで地域の農家さんを応援することもできます。ある意味、この地域の食を守るためのフェアトレードと言えるかもしれません。こどもたちにとっても食育の他に、物流の仕組みを学ぶことができそうですよね。

江守 :
畑は直接的な食の学びだけでなく、算数の基礎も学ぶことができます。例えば畝に苗を5つ植える時、実際に割り算ができなくても、均等に苗を植えるために脳は感覚的に計算をしています。最初は偏った植え方になるかもしれませんが、アドバイスを受けたり繰り返す中でその力が育つ。また、実際に自分で種を撒いて、撒き過ぎてしまったら間引きが大変になるという意味の諺「自分で撒いた種」を理解したり、地域の言葉や食文化なども派生して学ぶことができます。こうした学校では学べないものが畑に詰まっているので、農業というのは奥深いなと感じます。







今が幸せでないと到達できないものがある

濵田 :
『星山えほんの森保育園』の2階には、クリエイターセルを設置しようと計画しているのですが、まさに面白い大人たちが集まるような場所になったらと考えています。理想はこどもたちが卒園して大きくなっても、2階のクリエイターセルに戻ってきたいと思えるような場所です。江守さんは持続性を意識されていると思いますが、園児が卒園して終わりではなく、また戻ってくるような場所のアイデアとして何かあったら教えてください。

江守 :
私たちが「いまここにいる」ということは先代の人たちがつないできた結果だと思うので、わざわざ持続可能性を論じている現代は奇妙な時代だなと感じています。ただ昔に戻ろうというのではなく、ハイブリットが良いと考えています。AI も自然も理解できるような人が良いのではないでしょうか。この場所が記憶として故郷だと思えたり、田畑や山に触れたことが原体験となったら、自然に回帰してくるような気がします。

濵田 :
自然が近くにあることと同時に、魅力的で面白い人たちがこどもたちの傍にいることが非常に大切だと感じています。ただ面白おかしい人ではなく、こういう大人になりたいと思えるような人が傍にいると、こどもの人生にも大きく影響が出てくるのかなと思っています。

江守 :
自分が持っているユニークの掛け算で力がついていくと思うので、アーティストのような0から1をつくれる大人が傍にいると面白そうですよね。この場所でどのようにこどもたちが育つのか今から楽しみです。

濵田 :
庶民が手を出せないような高い学費を払って、いわゆるグローバルなビジネスエリートの輩出を目的とする学校もありますが、私個人としては真逆で経済的成功しか関心のない人たちがエリートと言えるのか疑問を持ってしまいます。むしろ日常生活を丁寧に分解し、畑を通じて生命について学んだり、アーティストの感覚にふれられた方が、これから起こるであろう地球規模の試練の中で生きる力を養えるのではないでしょうか。

江守 :
『星山こどもVillage』のコンセプトで掲げられている「Think Global, Act Local」という思想がもっと広がってほしいですね。ローカルで暮らしている人は、「自分たちのところには特別なものがない」と考えている人も多いかと想像しますが、『星山こどもVillage』を通じて「ここにしかない、特別なものがある」という発見があると良いですね。

濵田 :
「地方」や「都会」と分けるのではなく、「地球」という捉え方が良いと考えています。偏差値の高い大学に行く為に親子で塾に行くような古いロールモデルでは本当の幸せは掴めないのではないかと思ってしまいます。

江守 :
『いまここランド』の名前は仏教の「いまここにいる私」という考え方が由来です。偏差値の高い大学への進学や大企業への就職など、今は我慢して塾や大学に行き、辛い想いをしながら働くというのは、基本的に幸せを先延ばしにする行為だと思っています。そのような生き方では「いつ幸せになるの?」という疑問が湧いてくる。今が幸せでないと到達できないものがあると私は信じているので、『星山えほんの森保育園』に通う園児も家族もスタッフも地域の方々も、毎日充実した日々の積み重ねが大切だと考えています。

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